【証拠】中国経済で起きていること
蘭州市という都市のことをご存知だろうか?
日本人の多くの方には、あまり馴染みがない土地かもしれない。実は自分も、このビデオを見るまでは全く、どんな場所なのか知らなかった。
このビデオは「新唐人テレビ」が2012年に公開したニュース映像だ。
2012年といえば、中国でもまだまだ不動産開発や大規模投資がブームであり、関連する報道が盛んに伝わってきている頃だった。
だが2015年となった現在、不動産の価格は下落し、中国全土に「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンが多数出現するようになった。
このニュースで紹介された開発事案は、はたしてその後、どのようになったのだろう。
まずは、2012年のニュース映像なのだが、全て英語なので内容を最初に解説しておきたい。
紹介されているのは、蘭州地区で行われている過去最大級の、自然の山を平坦化して土地開発を行うというプロジェクトである。
山を平坦化するというのはどういうことなのか?
詳しくは映像で確認できると思うが、要するに、力技でブルドーザー、パワーショベル、ダンプカーを大動員して山を削り、平らな土地を作り出すというものだったようだ。
さらに詳細を要約すれば、以下のようになる;
参考までに、蘭州市の都市情報を簡単にまとめてみた。
- 中国西域の甘粛省省都であり、人口三百万強。中央に黄河が流れ、海抜1600mの高原地帯に位置する。
- 年平均気温は10度弱、真冬の1月の平均気温はマイナス5度を下回り、年降水量は300ミリを割る。
- 主な産業は、繊維、ゴム製品、肥料、石油精製や金属精錬などの鉱工業。
- 2008年のGDPは846億元(約1600億円)、一人当たりでは25566元(五十万円弱)。
- なお、甘粛省全体のGDPは、3176億元(約6.2兆円)で全中国中27位。
つまり、蘭州は西域を代表する地方都市であり、特にこれといった産業もない。
そんななか、今回、首都GDPの数倍規模の開発投資を目論んでしまったのである。
さて、それから三年が経った。
出だしこそ報道がなされたものの、その後、蘭州市に関しては、これといったニュースは聞かれない。盛んに報道されている他の開発プロジェクトと同様、ここでもまた途中停滞、開発停止に追い込まれているのだろうか。ちょっと調べてみようと思った。
どうやったのかというと、これほど大規模な開発ならば上空から見て確認できるのではないか、と考えたのである。そう、Google earthの衛星イメージを使ってみた。
まずは、当該地域の、開発の手が入る前のイメージである。
座標 <36°08'17.27" N 103°49'09.81" E>
2010年にはだいたいこんな状況だった。画像下の方に黄河が流れており、真ん中辺に市街地がある。これが蘭州市の中心部である。そこから北方に比較的険しい山脈が多数連なっているのが見て取れる。
続いて、同じ地域の最新の画像だ。
山のところどころに、明らかに平たい土地が開けているのがわかる。これが開発によって切り開かれた場所だ。
これらのうち、開発が集中している二つの領域(画像中「A」、「B」で示した)に注目し、さらに詳しく見てみる。
まずは、「A」で示された場所である。
座標 <36°08'32.24" N 103°53'12.26" E>
2012年はじめ、この地域は細い道路が山の間を南北に走り、わずかばかりの集落が山間にあるだけの土地であった。
ところが開発が始まると、山のわずかに低い部分を足がかりに、土地を削る平坦化の動きが始まった。
2013年にはこのような状況になる。
さらに2015年の段階では、土地の面積が広がり、また、北のほうでは新たな場所が切り開かれているのがわかる。
ただし、最初に手をつけられた画面右下の場所でも、三年経った現在、そこに建物や道路の建設が進められた形跡は見られない。広大な「更地」が広がっているだけだ。
当初の「平坦化」におけるスピードと比べ、明らかに開発スピードが減速している。
つづいて、「B」の領域に注目してみよう。
座標 <36°08'25.36" N 103°43'41.62" E>
この場所も、開発が始まる前の2011年には、険しい山々が連なる山岳地帯に過ぎなかった。
その山の中央部に、開発開始後の2013年、突然平らな土地が出現する。
さらに2014年、土地は南へ、北へと、広がりを見せる。
2015年現在は東西方向へも若干の拡張をみせ、さらに平地の南部では一部建物と公園やメインストリートらしきものの整備が始められている。
ただし、ここでも開発の進行は鈍化しているようで、少しずつ仕事は行われているものの当初の勢いは感じられない。
さて、以上見てきたが、結論からいうと、一部では細々と作業が進められているものの、大半の土地は山を削った後、手つかずのまま放置されている。やはり、開発自体が停滞、ないしは完全停止に近い状況に陥っている。
ちなみに「1500平方キロの開発」ということは、上記写真の面積だけでは十分でなく、ゆくゆくはこれら全てをつなぐ一大平原を築き上げるつもりだったのだろう。だが、それにははるかに及ばず、開発は滞ってしまった。
これは見た目以上に深刻な状況だ。なぜなら、そこから収益が全く得られていないからだ。
「鬼城」と呼ばれる場所でも、当初はマンションの買い手がいたから多少は資金の回収ができた。だが、蘭州の土地では建物が全く建っていないから、それすらない。数千億円規模の投資が、建設会社や労働者に流れた分を除けば無駄になっている。
最初に書いた通り、こんなふうな状況は中国全土に広がっているというが、ここでのポイントは、従来、投資開発熱とは縁がなかった中国の西域にまで問題が広まってしまっていることだ。
中国全土を覆い尽くす、というより、土地や資金を食いつぶす形で不動産開発は広まり、人々を煽り立て、不動産価格を乱高下させ、そして急停止してしまった。
いったい蘭州市はこの広大な更地を、今後、どうするつもりなのだろう?